私が先生になってまだ間もない頃の話です。
ある日、先輩の先生から、何気ない感じでこんなことを言われました。
「クラスの子、全員としゃべってるか?」
そのときは、
「もちろんです」
と返しました。
授業もしているし、指示も出している。
困っている子には声をかけているつもりでした。
でも、その一言が、なぜか頭に残りました。
クラスは30人近く。
特に高学年になると、一人ひとりが落ち着いてきて、
大きなトラブルも減ってきます。
「今日も問題なく終わった」
そんな日が続いていました。
ただ、ある日の帰り際、気が付きました。
「今日は、あの子と話しただろうか」
多分というか…しゃべっていない。
思い返してみると、発言の多い子、動きのある子とは、自然と話している。
でも、静かで目立たない子とは、一日一回も言葉を交わしていない日がありました。
先輩の
「全員としゃべってるか?」
という言葉の意味が、そこでようやく分かりました。
そこから、私は小さなことを意識するようになりました。
「全員と、一日一回は話す」
長い会話でなくていい。
指導でもなくていい。
プリントを配るとき。
提出物を集めるとき。
休み時間の終わり。
ほんの一言でいいので、顔を見て声をかける。
「昨日の宿題、できてたね」
「ノート、丁寧に書いてるね」
「さっきのところ、分かりにくくなかった?」
心がけ始めると、逆に気づきます。
「あ、今日はまだこの子と話していない」
その感覚が、だんだん分かるようになりました。
若い頃は特に、
「問題が起きていない=大丈夫」
と思ってしまいがちです。
でも、静かな子ほど、こちらが見に行かなければ、そのまま一日が終わってしまうこともある。
全員と話すことは、クラスを管理するためのテクニックではありません。
「目立たない子も、ちゃんと見ている」
その姿勢を、日常の中で形にすることだと思っています。
あのとき、先輩に言われた一言がなければ、私はきっと「できているつもり」のまま、見落としていた子がいたと思います。
先生になりたての頃にかけられた、何気ない一言は、今でも大切な指針になっています。

