「最近、夜に一人でトイレに行けなくなって」
「お風呂も、ドアを閉めるのを嫌がるんです」
節分が終わると、毎年のように聞く話です。
きっかけは「鬼」です。
例えば、こんなやり取りです。
保護者の方が、少し困った顔で言われました。
「節分の話をしただけなんです。豆まきしようねって」
「そしたら夜になって、急に『一緒にトイレに来て』って」
子どもは子どもで、言葉にするときは短いんですよね。
「鬼、来る?」
「ドア閉めたら、来る?」
その一言に、想像がもう出来上がっている感じがあります。
学校でも似たことがあります。
「節分って知ってる?」と聞いたら、教室の端から小さく声が返ってくる。
「鬼、こわい…」
その瞬間に、クラス全体がざわっとする。
面白がって「先生、鬼役やってよ!」と言う子もいれば、表情が固まる子もいる。
同じ教室にいても、受け取り方はまったく違います。
大人にとって節分は季節の行事です。
でも子どもにとっては、本当に来る話になってしまうことがあるのです。
一度怖くなると、行事そのものより「夜」が難しくなります。
廊下。
お風呂の湯気。
トイレのドアの向こう。
そこに想像が乗ると、本人の中では現実になります。
そういったことがあると、大人がつい言ってしまいがちな一言があります。
忙しい朝や、言うことを聞いてほしい場面で、
「ちゃんとしないと鬼が来るよ」
その場は早い。
でも後で悪い方に効きます。
保護者の方から聞いた言葉で印象に残っているのが、これです。
「その時は笑ってたんです。だから大丈夫だと思ったんです」
笑っているように見えても、怖さは後から来ることがあります。
寝る前に思い出す。
一人になった瞬間に怖くなる。
結果として、トイレやお風呂のいつものことが崩れてしまう。
保護者もしんどいし、本人もずっと緊張が続きます。
だから、鬼の話をするなら、脅す方向ではなく、安心して終われる方向に寄せたほうがいい。
ここが一番大事だと思っています。
ポイントは3つです。
一つ目は、鬼を正体不明のままにしないことです。
子どもが怖いのは、よく分からないものです。
だから「鬼が来る」ではなく、行事の意味を先に伝えます。
例えば、家庭なら、こんな言い方がよいです。
「節分はね、冬の終わりに『今年も元気でいようね』って確認する日だよ」
「豆まきは、悪いものを追い出して、いい一年にするための行事なんだって」
子どもが「鬼は?」と聞いてきたら、
「びっくりさせるための話じゃないよ」
と先に言っておく。
これだけで、怖さが強くなりにくいです。
二つ目は、鬼を外から襲ってくる存在にしないことです。
怖がる子ほど、鬼が強くなります。
そこで少し言い換えます。
「鬼って、みんなの中にある『いやだな』のたとえだよ」
「怒りんぼうの鬼とか、泣き虫の鬼とか。そういうのを豆で追い出すんだよ」
この説明だと、夜の廊下に外の鬼が出てくる話になりにくい。
子どもの中で、安心につながりやすいです。
学校なら、もっと短くてもいいと思います。
「節分は、いやな気持ちを豆で追い出す日」
「怖い話じゃないよ」
先生が短く言ってくれるだけで、救われる子がいます。
三つ目は、当日の設計です。
怖い子は「いきなり」が一番しんどい。
だから最初に見通しを出します。
例えば、放デイや家庭なら、最初にこう言っておく。
「今日は節分。びっくりさせる日じゃないよ」
「怖かったら横でOK」
「終わったら片づけまでして終わりね」
終わりを先に言うのは、意外と効きます。
怖さは、終わりが見えないと増えるからです。
やり方としては、こういう工夫が現実的です。
鬼役を大人がやらない。
絵や人形でやる。
お面は見せるだけにして、近づけない。
豆は投げなくてもいい。
箱に入れるだけでも参加。
逃げ場所を決めておく。
廊下、別室、机の下でもいい。
「逃げていい設計」があると、結果的に落ち着いて参加できる子が増えます。
また、夜に怖くなってしまった子には、行動で安心させましょう。
「一緒に行こう」
大丈夫という説明で納得させるより、行動を伴わせる。
面倒に思う時もあるかもしれませんが、結果的にはその方が早く収まります。
節分は、子どもを試す日ではありません。
行事が終わったあとも、夜がいつも通り回る。
そこまでが節分だなと思っています。

