同じ出来事でも、叱ることもほめることもできる

あるお母さんが、少し肩を落とした様子で話してくれました。
「家で、叱ってばかりなんです。」
その一言のあとに、少し間がありました。
迷われたあとで「例えばね…」と、こんな場面を教えてくれました。

「この前、朝になってから『宿題やってなかった!』って言いだしたんです。」

もう時間がない。
そのお母さんは「カッとなってしまって。」と苦笑いされました。
それを聞いて、こちらからこう伝えました。

「それは、イラッとしますよね。」
「朝のいちばんバタバタしている時間ですもんね。」

まずは、そうなって当然だと思っています。
大人だって人間です。
忙しいときに「今かい!」というタイミングで言われたらイラッとするのは、ふつうのことです。

その上で、もう少しだけ話を続けました。

「同じ出来事なんですけどね。叱ることもできるし、ほめることもできるんですよ。」

お母さんは、少しきょとんとした顔をされました。
そこで、さっきの場面を一緒に整理してみました。

事実としては
・宿題をやっていなかった
・朝になって気づいた
ですよね。

ここだけを見ると、
「なんでやってないの」
「昨日、言ってよ」
と叱りたくなります。
でも、もう少し細かく見ていくと、別の部分も見えてきます。

「自分で『やってなかった』と気づいた。」
「ごまかさずに『やってなかった』と口に出した。」

ここは、その子ががんばったところでもあります。
だから、同じ出来事をこう見ることもできます。

宿題は忘れていた。
でも、自分で気づいて自分の口で言えた。
この部分に目を向けると、叱るだけではなく、ほめることもできる出来事に変わってきます。
例えば、声のかけ方も少し変えることができます。

「やってなかったのは事実だね。」
「でも、自分からちゃんと言えたのはえらいよ。」
「次はどうしたら忘れにくくなるかな。」

こんなふうに言うこともできます。
もちろん、毎回こう言えるとは限りません。
朝は戦場みたいな時間です。
イラッとする自分を責める必要もありません。

しかも、こうしたことは繰り返し起きます。

ただ「同じ出来事でも、叱ることもできるし、ほめることもできる。」

このことを、頭のどこかに置いておくだけでも少し選択肢が増えます。
そのお母さんにも、次のようなことをお話しました。

・叱ることが全部悪いわけではない
・でも、叱りっぱなしだと、子どもは『自分はダメな子なんだ』というイメージを持ちやすくなる
・同じ出来事の中にちょっとでも『よかったところ』がないかな、って10回に1回だけでも探す
・見つかったら、それを一言だけ足す

それだけでも、子どもの受け取り方は変わってきます。
そのお母さんは、最後にこう言われました。
「叱るのをゼロにしようとするから、しんどかったのかもしれませんね」
「同じ出来事の中で叱ることと、ほめること。両方あっていいんですね」

うちの放デイではこんなふうに、一緒に出来事を分解しながら「別の見方」を一緒に探すことがあります。
同じ出来事でもダメだったところだけを見る日ではなく、よかったところも一緒に見つける日が少しずつ増えていったらいいなと思っています。

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