入力ばかりで、出力できなくなる私たち─子どもも、大人もです ─

年末年始は、気づくと時間が過ぎています。
ゲーム、YouTube、スマホ、漫画。
今日、何してたんだっけ、と思う日が、子どもにも大人にも増えます。

でも、これは意志が弱いからでも、だらしないからでもありません。
今の生活は、とにかく「入力」が多くなるようにできています。
見れば次の刺激が流れてきて、考えなくても進められて、楽で気持ちよくて止めにくい。
これは脳の仕組みとして、とても自然なことです。

問題は、入力していることそのものではなく、出力する場面が極端に減っていることです。
見る。
聞く。
読む。
これだけで一日が終わってしまう日もあります。

ここで知っておくと安心できる考え方があります。
心理学や教育学では「テスト効果(testing effect)」という現象が知られています。
これは、ただ繰り返し見るよりも、思い出したり、書いたり、話したりする方が、情報が頭に残りやすいというものです。

このことは、Roediger & Karpicke(2006)の実験でも確かめられています。
この実験では、ある内容を何度も読み直したグループと、内容を思い出すテスト(出力)をしたグループを比べたところ、時間が経ってからの記憶の残り方が、テストした方が高かったという結果が出ています。

簡単に言うと、ただ「入力」するだけではなく、一度「出す」ことで、情報は整理されやすくなります。
つまり、「出力」は単なる作業ではなく、記憶や思考の整理整頓の時間でもあるのです。

では、出力が増えると何が助かるのでしょうか。
最も大きいのは、生活が回りやすくなることです。
頭の中が片付くからです。
入力だけが続くと、情報や刺激がたまるだけで、整理する時間がありません。
すると、考えるのが重くなります。
動き出すのがしんどくなります。

出力は、頭の中の整理整頓です。
言葉にする。
書く。
説明する。
こうした行動をすると、脳が「何が大事か」を選び始めます。
だから、気持ちが落ち着きやすくなります。
次にやることが見えやすくなります。

出力で得られることは、大きく3つあります。

1つ目。
気持ちが整いやすくなります。
モヤモヤしていることも、言葉にすると形になります。
形になると、対処しやすくなります。

2つ目。
できることが増えます。
読むだけでは気づかなかった弱いところが、説明すると見えてきます。
すると、次に何をすればいいかが分かります。

3つ目。
行動が軽くなります。
情報を集めて終わりではなく、「じゃあ次はこれをやろう」が生まれやすくなります。

ところが今の生活は、出力しなくても成立してしまいます。
動画を見る。
ゲームを進める。
SNSを流し見する。
どれも受け取るだけで完結します。

すると子どもたちから
「考えるの、めんどくさい。」
「疲れる。」
「別に、やらなくていい。」
そんな言葉が増えてきます。

でもこれは、やる気がないのではありません。
出力する力が、しばらく使われていないだけです。
使っていない筋肉が、急に動かしにくいのと同じです。

これは、子どもだけの話ではありません。
大人も同じです。
情報を集めて、読んで、見て、「いい話だったな」で終わる。
でも自分の言葉でまとめない。
誰かに話さない。
情報は増えるのに、行動は増えない。

だから大事なのは、制限や禁止ではありません。
ゲームやスマホが悪いわけでもありません。
必要なのは、出力をほんの少し取り戻すことです。

年末年始は、特に入力に偏りやすい時期です。
だから、1日1回でいいので、出力を入れるだけで十分です。

例えば、次の3つのようなことです。

1つ目。
今日あったことを、一言で書く。
紙でもスマホのメモでもかまいません。

2つ目。
今日のよかったことを、一つだけ口に出す。
家族でも、自分一人でも大丈夫です。

3つ目。
見た動画や読んだ話を、30秒で説明してみる。
まとまっていなくてかまいません。

これは、出力の練習ではありません。
生活を回すためのスイッチです。

うまくやる必要はありません。
続かなくても大丈夫です。
「話した」「書いた」。
それだけで、ちゃんと出力です。

入力ばかりの毎日から、少しだけ出力を取り戻す。
すると、考える力も、話す力も、また動き出します。
まずは今日一日を、一言で残すところから。
それくらいの小さな一歩で、十分です。

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