私が責任者として運営していた「ゲンテン」では、スタッフとして企業を定年退職された5名の男性にお手伝いをいただきました。
全員が一部上場企業ご出身の方で、豊富な知識と経験をお持ちでした。私自身、その人たちから多くの事を教えていただきました。
その中のお一人、Sさんの事例をご紹介します。
Sさんと私がコンビを組んで「ゲンテン」を運営していた時、20歳代前半の男性が参加してきました。
高校卒業後にコンビニでアルバイトをした経験はありますが、2年ほど離職状態で働く意欲をあまり持っていない人でした。
心療内科などへの通院もなく健康体で、何もせずに遊んでいるという感じの生活をしていました。
少し「さぼり癖」もあり、通所開始後も時折、何らかの理由をつけて休んでいました。
若く健康な彼が「どうしたら就労意欲を持ってくれるか?」を、Sさんと私はいつも話し合っていました。
ある日の朝、9時50分くらいに彼から電話がありました。
電話を取ったのはSさんで、「歯医者に行くから休みます」との連絡でした。
私は「また休むのか・・・」と思いましたが、その時のSさんの対応が素晴らしかったのです。
S:「歯医者って、前から予約していたのか?」
彼:「いえ、痛くなったので今から行きます」
S:「今から行くなら午前中に終わるのではないか?」
彼:「混んでるかもしれないので・・・」
S:「ちょっと待ちなさい。混んでたとしても午前中には終わるはず。午後の作業が始まる13時から出てこれるはず」
彼:「・・・」
S:「よく聞いてくれよ。歯が痛いだけで救急車で運ばれる訳ではないだろう」
彼:「・・・」
S:「なぁ、頼むわ。昼からで良いから出てきてくれ。待ってるしな!」
ここまで話して、彼の返事を聞くことなく電話を切られたのです。
「言いすぎましたかね?」と心配もされていましたが、必ず来てくれるという期待も持たれていました。
そして彼は午後から来たのです。
Sさんは彼の顔を見るなり、「ありがとう、よく来てくれた。嬉しいわ」と伝え、それ以上深く歯医者のことをお聞きになりませんでした。
ところがその後、彼は休まなくなったのです。
「ゲンテン」の最終日に、「XXさんにありがとう」という発表を参加者全員にしてもらっていました。
彼はその発表でこう言いました。
「Sさんにありがとう」
「歯医者に行くと言って休もうとした時に、僕の目が覚めました」
「面倒なことから逃げる癖がついていたけれど、Sさんに厳しく言われ仕方なしに歯医者の後で出てきました」
「そのときSさんから、『ありがとう、嬉しいわ』と言ってもらえたことが忘れられません」
「僕のことを信じて待ってくれていた人がいる、それが嬉しかったんです」
私がSさんの方に顔を向けると、恥ずかしそうに微笑んでおられました。
そして彼は「ゲンテン」を卒業してすぐ、前にアルバイトをしていたコンビニに復帰したのです。
そうです、Sさんは「叱る」のではなく「苦言」を呈されたのです。
そしてそれに応えてくれた彼を素直に認め、お礼を伝えたことが彼の気持ちに変化をもたらしたのです。
支援の中で「叱る」ということはしないようにしていましたが、「苦言を呈する」という期待を込めた叱咤激励が大切なことを教わりました。
私たちエデュワークもSさんを見習っていきたいと思っています。
子供たちの言葉遣いや間違った行動に対して、「叱る」「注意する」という伝え方ではなく、子供たちの成長を願い期待を込めて「苦言を呈する」という形を取っていきたいと思います。
言うほど簡単なことではありませんが、スタッフ一同、努力していきます。
担当は「N」でした。

