初の卒業生

活動

1 初の卒業生

昨年(2022年)7月に開所した就労支援特化型放デイのエデュワーク。その初期メンバーの一人が「コータロー君」です。

特別支援学校高等部3年生。知的障がい。場面緘黙(かんもく)。障がい程度は中度判定です。こうして書き連ねると、健常者の方たちは「大変なんだね」「大丈夫?」「支援しないと」のように言います。それもわかります。高等部卒業後に就職できるのは全国平均で約3割。心配をくださるのも当然です。しかもコータロー君は入所時で卒業まで9ヶ月。進学・就職の選択を含め、進路は決まっていませんでした。

※場面緘黙…家などではごく普通に話すことができるのに、例えば幼稚園や保育園、学校のような「特定の状況」では、1か月以上声を出して話すことができないことが続く状態

でも、です。高校3年生の進路は7月で決まっていることの方が少ないのではないでしょうか。進学するにしても、就職するにしても、まだまだの時期であることも確かです。目処がまだない、というのは焦りますが、これからというのも事実でした。

2 場面緘黙でもエデュワークでは話せる

そんなコータロー君。通い始めてすぐに京都新聞の取材を受けました。ドローン操作を通して、指先の動きや思考の手順を学ぶトレーニングの様子を写真に撮ってもらい、インタビューを受けます。「はい」「うまくできます」「楽しいです」と言葉短かに、でもはっきりと答えていきます。

あれ?場面緘黙なのに…コータロー君は、通所当初から自宅とエデュワークで話をしていました。受け答えはもちろん、トレーニング内容や大好きな電車のことも。隣の公文へ行った際には、通所日ではないのに、戸をあけて「終わった」のように声をかけてくれることも度々ありました。

お母さんからは「社会の中で話す場面はエデュワークだけです」と教えてくれました。

3 仕事に向けたトレーニングとの出会い

お話をする場面の一つにエデュワークを入れたコータロー君。

仕事と出会います。「社寺屋根づくり」です。寺や神社の屋根。瓦だけではありません。草のようなものが屋根に載っている場合もあります。それを作る仕事です。あの草のようなものは、檜皮(ひわだ)という檜(ひのき)の皮を整え、重ねたものです。屋根の上で一枚ずつ積み上げるのではなく、地上である程度の大きさの束に揃えて、屋根の上で固定します。屋根の美しい曲線は、職人さんが、その束を組み合わせていくことによって作られていきます。

日本の伝統文化である寺や神社の屋根づくりの材料を、日本で初めて知的障がいのある方が作成する。そうした取組にコータロー君が挑戦することになりました。

こうした取組を話題にする時、ポイントになるのは「仕事内容」だけではありません。もう一つ大切な観点があります。「金銭」です。現在、障がいのある方が多く働く「就労継続支援B型事業所」という仕組みでは、全国平均が16,118円。これは月額です。時給換算すると約200円。いくら仕事内容が尊くても、これでは生きていけません。

仕事内容と金銭。この両方が必要です。

例えば、私は前職が教員です。授業が本業です。

A 授業をして子どもたちを成長させる。でも1.6万円。
B 毎日チョークの粉集めをして黒板掃除。でも公務員給与。

AでもBでも、やれません。両方が必要です。これは、健常者だから、障がい者だから、ではなくヒトとしてです。

そのお金。コータロー君が取り組む檜皮の作業。専門職です。職人が取り組むと時給4,000円近くになるということでした。練習すれば、丁寧さを継続できれば、誰でもできるというメリットもあります。その額に届くのは容易ではないでしょう。それでも職人の1/4のスピードで最低賃金が確保できます。

コータロー君の挑戦が始まりました。元からゆっくりとした動き。でもダメではありません。この仕事で最も求められる丁寧さがあります。1時間のトレーニングの結果を通うたびに記録していきました。
4cm、4.5cm、5cm、4cm、5cm、3cm…
進んでは戻りの繰り返し。それでも、平均数値が少しずつ上がってきました。ゆっくりでも、確実に成長しています。

そうして、出来上がった屋根の材料。これは今回全面サポートをしてくださった株式会社友井社寺さんが「合格!」と太鼓判を押してくださいました。実際に神社の屋根に載せ、これから何十年もの間、建物を守る屋根になることが決まりました。

4 卒業後の進路

あっという間に月日が経っていきます。年が明け、お母さんと何度も面談をする中で進路も決まりました。障がい者の訓練校です。ここに1年間通うことになりました。

それだけではありません。今後、エデュワークで進めていく就労の場も用意することになりました。社寺屋根づくりを中心に様々なことを、今度はトレーニングではなく、仕事として進められるよう選択肢を用意しました。1年間の訓練校を終えてからの次の進路が明るくなりました。

就労支援特化型。「働いて、生きていく」を実現する場としての成果を出せたと感じています。

コータロー君は、エデュワーク初の卒業生です。
放デイの利用として通所することはもうありません。
それでも訓練校のコータロー君に会えます。
今後、社会で活躍するコータロー君にも会えます。
それはエデュワークか、他の事業所かはわかりませんが、選択できます。
そして、何よりも、エデュワーク第一期の卒業生として先輩のコータロー君にも会えます。

社会で同じステージに立ち、先生と教え子の立場ではなく、社会人としてフラットに会えることが、これからも楽しみです。

放課後等デイサービス エデュワーク
越智敏洋

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